うめはらなかせの日記みたいな掲示板2

アコースティックギターの前にすべての曲は平等である

リストの話

フランツ・リスト

なぜ女たちを失神させたのか

f:id:umeharanakase:20220313141812j:plain

読みました。

センセーショナルなタイトルで、

つい手に取ってしまいそう。

www.cherry-piano.com

19世紀の初頭、「リスト・フィーバー」が、

ヨーロッパで巻き起こったそうで、そういえばそんな話、

前に聞いたことがあるなという程度の知識で読みました。

失神の理由を、

詩人のハイネが婦人科の医師に訊ねたところ、

感応磁気、電気感応、電流、無数のロウソクが灯り、

香水をつけて汗臭い数百人の蒸し暑いホール内での接触感染、

演劇性てんかん、さらには、トリック現象、音楽薬効、

その他、口にできないさまざまなこと

とのことでした。

医師もよくわかってないってことでしょうか。

密着状態で観客同士が身動きできないなか、

極度の興奮状態から呼吸と運動量のバランスが崩れた

過呼吸」が原因か、さもなくば、

「コルセット」が原因で、ウェストを締めすぎて

浅い呼吸しかできないために、つねに貧血状態で、

刺激に弱かったと考えられています。

 

以上が(ブルジョワジーの台頭という社会背景も語られていますが)、

書名にある失神の話で、それ以外にリストの生い立ちから、

超絶技巧の話、ショパンとの関係、ピアノという楽器の進化、

音楽界の変化など、リストを軸に19世紀という時代を解説しています。

 

面白かったのは、リストがリサイタルを発明し、

初のピアニストになったという話。

それまでは、ピアノだけで演奏会をすることなど、

だれも考えつかなかったそうで、

当時のコンサートは、ピアノあり、歌曲あり、室内楽ありという、

混合型で、ソロ・コンサートはなかったとか。

モーツァルトも、ベートーヴェンも、

自分の作品を聴かせるためにピアノを弾いたのですね。

一方、リストは自作曲だけでなく、

他の作曲家の音楽を世に広めるためにピアノを弾いた、

最初のピアニストなんだそうです。

www.youtube.com

リストは作曲家でもあるわけで、

(ぼくが知ってるのはハンガリー狂詩曲だけ)

彼が作曲したピアノ曲をすべて演奏したら、

合計で約122時間。

不眠不休で演奏したとしても、

日間以上弾きっぱなしになるんだとか。

それがCD化されて全99枚の全集になってるそうです。

 

あと、西洋音楽の主流は、ハンガリー(?)生まれのリスト以降、

東欧人たち中心に傾いていくことになるということ。

チャイコフスキードヴォルザークマーラーバルトーク

ラフマニノフなど、東欧出身の音楽家たちが、

十九世紀後半以降の西洋音楽地図の大半を占めるといってもいい。

東欧と西欧、日本人にはどっちもヨーロッパに思えますが、

違うのですね。

多くのフランス人やイギリス人は、ポーランドハンガリーを、

いまだにヨーロッパとは思っていない。

彼らにとってのヨーロッパとは、西欧であって東欧ではない。

いわんや、ウクライナはってことですね。

 

最後にリストの言葉を紹介します。
芸術の使命は、苦悩に満ちた現実を、

天空の高みに昇華させることだ