うめはらなかせの日記みたいな掲示板2

アコースティックギターの前にすべての曲は平等である

なぜ大和を造るのか

駆逐艦は軍艦とは呼ばない。

軍艦と呼べるのは菊の御門を艦首につけている、

戦艦、空母、巡洋艦だけ。

駆逐艦雪風の元乗組員の方が

NHKのドキュメンタリーで話しておられました。

「では駆逐艦は軍艦でなくてなんと呼ぶのですか」

と上官に訊いたら「艦艇だ」と答えられたそうです。

 

しかし、先の大戦中、戦艦大和と武蔵は

ほとんどの期間、温存され、

雪風のような駆逐艦は、護衛に輸送に大忙しでした。

高価で出番の少なかった戦艦のコストパフォーマンスは

非常によくなかったといえます。

そしてまさにその戦艦大和のコストに着目した映画がこれ。

 

アルキメデスの大戦

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ちなみに軍艦の大きさは「排水トン」で表します。

これは船自体の重さで、アルキメデスの原理では、

船の重さは船が排除した水の体積、

すなわち排水量から算出できるということです。

タイトルはここから来てるのでしょうか。

戦艦大和排水量は約7万トンだそうです。

 

さほど期待せずに見たので面白かったです。

実在の人物をモデルにしたフィクションですね。

マンガが原作のようです。

冒頭の6分ほどを見るだけでも値打ちでした。

戦艦大和映画(そんなジャンルないけど)の歴史のなかで、

最もよくできたVFXじゃないでしょうか。

水兵たちが描き込まれると、それほど巨大に見えないのが不思議です。

 

沖縄への水上特攻の戦闘シーンから始まります。

主砲から発射された対空用の三式弾が、

押し寄せる敵編隊の近くで炸裂する描写がリアルです。

これはほかの映画でも描かれたと思いますが、

初お目見えはアメリカの救難機(カタリナ飛行艇)が、

撃墜されてパラシュートで脱出した兵士を、

戦闘の最中、着水して救出する場面。

それを目撃して驚嘆する大和搭乗員の表情も描かれます。

兵隊に生還が困難な特攻を命じる日本海軍と、

とことん兵隊の命を重んじるアメリカ海軍との対比が、

この映画のテーマにもかかわってきます。

だからここは重要なシーンといえます。

 

これからは空母が主力艦になると考える海軍少将・山本五十六は、

大和建造計画に待ったをかけるべく、天才数学者を起用して、

大和建造にかかる莫大な費用を算出させて見積不正を暴こうとします。

映画のほとんどは菅田将暉演じる若き天才数学者が、

情報のないなか、妨害を排して、独力で大和の設計図を作製し、

建造コストを推定できる公式を導き出して、

海軍上層部を追い込んでいくプロセスなのですが、

最後に逆転また逆転で、ああ、そういう発想もありえたかとうならされます。

(そこはリアルとは思えないですが)

ただし、当時、大和の存在は極秘だったので、

ほとんどの日本人は、太平洋戦争のあいだずっと、

日本でいちばん大きな戦艦は長門だと思っていました。

そのことを考えると、んんん……となるのです。

 

なんのために大和は戦うのか。

吉田満の代表作「戦艦大和ノ最期」の次の一節を思い出します。

敗レテ目覚メル、ソレ以外ニドウシテ日本ガ救ワレルカ 

今目覚メズシテイツ救ワレルカ 俺タチハソノ先導ニナルノダ 

日本ノ新生ニサキガケテ散ル マサニ本望ジャナイカ

 

なんのために大和を造るのか。

最後に田中泯演じる造船中将が語る言葉は

戦艦大和ノ最期」と地続きのように思えました。

原作マンガが素晴らしいのでしょう。

それを映像化したこの作品は、

戦艦大和映画(そんなジャンルないけど)の名作として残る気がします。