うめはらなかせの日記みたいな掲示板2

アコースティックギターの前にすべての曲は平等である

おとぎ話の前々日譚はシリアスドラマ

2025年度うめはらが勝手に選ぶドラマ最優秀賞!

舟を編む~私、辞書つくります~

と、ついこのあいだ書いて、その舌の根も乾かぬうち、

キャシアン・アンドー

これがまたようできたドラマでした。

disneyplus.disney.co.jp

 

スター・ウォーズ」に興味のない人は

ここで終わりですね。

 

「キャシアン・アンドー」は1977年に公開された

最初の「スター・ウォーズ(エピソード4/新たなる希望)の

前々日譚にあたるテレビシリーズです。

で、前日譚(プリクエル: prequel)にあたるのが映画

ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」(2016年)でした。

帝国に反乱する、はみだし部隊ローグ・ワンが、

究極の兵器デススターの設計図を命がけで奪い取り、

それがレイア姫に渡り、彼女がワープで脱出する場面で終わります。

 

2016年につくられた「ローグ・ワン」の最終場面が、

1977年につくられたスター・ウォーズ」の冒頭シーンへと

ほぼ40年の時を経て、つながっていくわけです。

「ローグ・ワン」の最後にわずか数秒出てくる、

キャリー・フィッシャー演じるレイヤ姫は、

体形のよく似たゴースト女優が演じて、

その顔にフィッシャーの顔が合成され、

見事にフィッシャー・レイア姫がよみがえりました。

ちなみにキャリー・フィッシャーは、

「ローグ・ワン」公開後、亡くなっています。

享年60歳。

 

「ローグ・ワン」では自由を求める戦士が次々に倒れ、

多くの犠牲を払った末、デススターの弱点を記した設計図が、

新たな「希望」として同盟軍に渡ります。

希望とは、多くの英雄の死で購(あがな)われるものなのです。

その英雄の一人、キャシアン・アンドーも

設計図を奪取して同盟軍に送信したあと、

デススターの攻撃による死の運命を受け入れます。

そんな彼をフューチャーしてつくられたテレビシリーズが、

「キャシアン・アンドー」です。

(前振りだけですごい文字数になってしまった)

 

実にシリアスな大河ドラマなんです。

主人公の生い立ちから説き起こされ、

わがままで無法者だった彼が、

帝国の圧政に立ち向かうまでが描かれます。

単に英雄のみを取り上げるのではなく、

サイドストーリーとして帝国側の組織のコマの一人ひとりを

丁寧に描いているところが名作の所以です。

今年のエミー賞を5部門で受賞したのもうなずけます。

 

物語にはいろんな要素があって、

ジョージ・オーウェルの「1984年」的管理社会の恐怖や、

パリ占領下でのナチスレジスタンスの戦いを思わせる、

抵抗組織のあり方、スパイ同士の暗闘など、

スカッと気分が晴れる活劇なんかでは全然ないんです。

徹底した秘匿下で行われるデススター開発は、

マンハッタン計画(原爆開発)に擬せられています。

スター・ウォーズ好きのぼくでも、

見るのに忍耐力が必要なエピソードがありました。

 

ちなみに中国では歴史を語る書物を「大説」というそうですけど、

このドラマは大説と小説の滋養をたっぷり含んだシナリオになっています。

製作者の幅広い教養のなかからはいくつもの名言が繰り出されます。

 

自由とは純然たる思想だ。

教示なくともおのずと湧き上がる。

 

反乱の最前線はどこにでも存在し、

小さな反抗でも前線は押し広がる。

帝国の必死な支配欲は不自然さの表れ。


専制は不断の努力を要する。

故障やほころびは常だ。

権威はもろく圧政は恐れを隠す仮面。

 

スター・ウォーズ」シリーズの名で、

よくこんなダークで壮大な人間ドラマをつくったなと思います。

 

いちばん感心したのが美術です。

最初の「スター・ウォーズ」が公開されたときには、

ネットもなければスマホもSNSもありません。

液晶ディスプレイもないわけで、

でもその当時、初めて見るSFX(いまでいうVFX)の

視覚効果にワクワクさせられました。

そのときのスター・ウォーズの世界観を残すために、

いろんな小道具や大道具、美術が、

2020年代の現代から想像する未来ではなく、

1970年代から想像する未来のものとしてつくられています。

液晶ディスプレイらしきものはありますが、

そこに映る映像はアナログ的で大味なものです。

CG技術が生まれたばっかりで、

線画みたいなのしか描けなかったんですね。

最新の「キャシアン」でもそのレベルに合わせています。

 

未来的に見える兵器の数々は、

ほぼ第二次大戦中のものと変わらない威力しかありません。

ロボットはいるのに空を飛ぶドローンはあまりありません。

ホログラムはあるのに個人間の通信では音声通話しかできません。

監視カメラや顔認識システムもありません。

そういういびつな未来世界を楽しめる視聴者もえらいけど、

スター・ウォーズファンから文句が出ないよう、

精緻に考証してつくる製作者の根気がすごいです。

嘘ごとの世界を粘り強くシーズン2までつくったわけで、

こんなのを実写でやるって日本じゃできなかったと思います。

(あ、でも戦隊ものが今けっこうダークですよね、あれと同じかも)

 

スター・ウォーズ」という、いわばSFおとぎ話から俯瞰して、

よくここまでシリアスで見ごたえのあるドラマに

つくったものだと感心する次第です。

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