自衛隊の射撃場で発砲した若者、
なんでなのかわかりません。
長野県で女性と警察官、計4人を殺害した若者、
これもわかりません。
これこれこういう理由でやったのだと
仮に打ち明けられたとしても、
やはりわからないでしょう。
人を理解するなんてムリなのかもしれません。
芥川賞受賞作ですね。
受賞からだいぶたってやっと読んだわけですけど、
ほんと面白かったです。
36歳未婚、彼氏なし。
コンビニのバイト歴18年目の古倉恵子。
日々コンビニ食を食べ、夢の中でもレジを打ち、
「店員」でいるときのみ世界の歯車になれる――
主人公はまるで宇宙人かロボットのよう。
自分がどう振る舞えば「普通」に見られるかがわからず、
コンビニ店員という天職に出会ってようやく、
社会の「一員」になれた実感が持てるようになります。
コンビニにはマニュアルがあって、
服装から髪型から、話し方、するべきこと、
すべてが定型化されていて、
その鋳型に自分をはめ込むことで、
主人公は心の平穏が得られます。
最初は脳機能に障害を抱えた人の物語なのかと
思っていました。
普通の人間という皮をかぶって、
そのマニュアル通りに振る舞えば
ムラを追い出されることも、
邪魔者扱いされることもない
つまり、皆の中にある「普通の人間」
という架空の生き物を演じるんです。
あのコンビニエンスストアで、
全員が「店員」という架空の生き物を
演じているのと同じですよ
というところだけを抜き出してみると、
「普通」を強制される社会の息苦しさみたいなのを
描く小説なのかと思ってしまうのですが、
それ以上の物語でした。
もっと深く、もっと根源的なこと。
LGBTとか多様性とか、そういうんじゃない、
一人ひとりの「生きる」ということそのものの話。
だからこそ普遍性をもった物語として世界中で読まれたのですね。
読み終えて、自分というものを包み込む壁が溶け出して、
とろっとろになってしまうような、
そんな感覚がしました。
こりゃ、ほんとに面白い読書体験でした。