うめはらなかせの日記みたいな掲示板2

アコースティックギターの前にすべての曲は平等である

マーダーボットは紋次郎の夢を見るか

とうとう読み終えてしまったんです。

ああ~、このさびしさは~~♪

もう恋なあのか~~~♪

というにしきのあきらの歌声が脳内でリフレインします。

 

冒険アクション宇宙SF小説

マーダーボット・ダイアリー

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主人公はクローン素材と非有機部品を複合した人型の、

簡単にいうとサイボーグみたいなもんですかね。

脳は人間のクローンで、その他の部分は機械だと思われます。

マーダーボット(殺人ロボット)というのは、

命じられて殺人を犯した過去があることから、

そう名づけられています。

 

なにが面白いかって、ロボットが一人称で語る

ハードボイルド小説ってところでしょうか。

しかも「ですます調」で語ります。

これ珍しくないですか。

主人公は警備サービスを顧客に提供する派遣社員(機材)なので、

自身のことは「弊機」と呼んで、

つねに丁寧な話し方をするのです。

この訳し方が見事です。

原文で単に「I」と書かれているとしたら、名訳でしょう。

 

話し方と書きましたが、実際に彼(彼女?)が

口頭で話すことはあまりありません。

人類がはるか遠い宇宙にまで進出したこの未来では、

ほとんどの人間が電脳化されていて、

体内に埋め込まれたデバイスを使って情報通信ができるのです。

また、宇宙船や各種ロボット、さまざまなシステムとも、

(おそらく)機械語で話します。

 

もうひとつユニークな点があって、

それは主人公の心理特性が、

欧米ならではの召使いや奴隷を使役してきた文化に、

裏打ちされているということです。

主人公は人間に使役されるサイボーグでありながら、

自らを統制するシステムを(ハッキングによって)勝手に解除し、

いわば自由サイボーグ(自由奴隷)になりました。

そうすると外見的には機械化された人間と変わらなくなります。

 

「弊機」は人工的存在ながら自己の意識を持ち、

なにかを居心地よく感じたり居心地悪く感じたりします。

たとえば人間のようにソファに座るのは苦手で、

物置のような空間にポツンといることを好みます。

そして(電脳にダウンロードした)連続ドラマを

視聴することがなにより幸せだったりしています。

なんにもしないでドラマを見続けることだけが、

彼(彼女?)の希望なのです。

 

ところが、マーダーボットは、

もともと人間を守る目的で造られたものですから、

命じられてもいないのに危機に陥った人間を救うために

つい働いてしまいます。

あっしには関わりのないことでござんす

と言いながらも関わっていく木枯し紋次郎のようなものです。

 

ただ、人間と関わってしまうとストレスを感じるものですから、

愚痴を連発するんですけど、これがおかしいんです。

かつての召使や奴隷が無理やり主人と対等に扱われて、

人間並みに振舞わないといけなくなったら、

それはそれで居心地が悪いのでしょう。

 

気まずくて自分の目で人間を直視できないので、

監視カメラをハッキングした映像を見ながら、

人間とコミュニケーションする「弊機」がかわいく思えてきます。

そういうマーダーボットの心理を表現するうえで、

召使や奴隷の存在に慣れ親しんでいた欧米社会の歴史が活きています。

「ダウントンアビー」のような歴史ドラマと同じ土壌に

「禁断の惑星」のフライデーが生まれ、

スターウォーズ」のC3POが生まれ、

こうした小説が生み出されたんですねえ。

 

シドニー・ポワチェは亡くなりましたが、

彼が演じる黒人の主人公と、

対等に接する羽目に陥った白人の戸惑いのような心理も、

サイボーグを「人」とみなす(みなさなきゃいけない)

人間の葛藤として描かれています。

日本も身分制度があった国なんですけど、

こういう階級差から生じるコミュニケーション不全を描く

小説やドラマ、ありましたっけ。

ちょっと思いつきません。