いいドラマが最終回に近づいてくると、
見終えてしまうのがもったいなくて、
録画したまま放置するクセがあります。
それで放送終了後だいぶたってから見終えました。
それでも俺は、妻としたい
風間俊介演じる、売れない脚本家、豪太。
42歳で年収10万円の、よく言って主夫、
もしかするとヒモ状態なんです。
家計を支えてくれる妻のチカ(MEGUMI)と
セックスだけはしたいという、
いいとこなしのクズみたいな男の役、
風間俊介がよく受けたと思います。
NHK大河「べらぼう」でも嫌味な商売人の役で光ってますよね。
豪太は大学の映研時代、自主映画で賞を取り、
その才能にほれたチカと結ばれます。
しかし、その後の彼はまったく鳴かず飛ばず。
過去の栄光にしがみついて、プライドだけは一人前、
あれこれ言いわけしては仕事をしません。
見どころは、ろくでなしのダメ夫に
怒りを炸裂させる妻の、キレッキレのセリフ返しです。
おめーなんかとするわけねーだろ!
とか言われて、ヘラヘラ笑って引き下がる豪太。
息子の担任の若い女性教師と小学校で面談中、
仕事もしねーで一日中ヒマだろうが
とか言われても、俺だってさ、とか薄ら笑いを浮かべながら、
その場をとりつくろいます。
どこがよくてこんな男と夫婦でいるんだろうと
見てる人は思うんですけど、
チカにはまだ愛が残ってるんですね。
こんな会話があります。
チカ それに あんただってさ
別に私に愛があるっていう感じじゃないじゃん
執着でしょ、 単なる
豪太 なに、執着って?
チカ いや、 だから愛してるっていうことじゃなくって
自分の思いが伝わらないのが許せないってことなんだよ
豪太 そんなことは……
チカ そうじゃん、 だって大切にされてる感じないもん、 私
豪太 いやいや……
地下 そんな辛い顔しないでよ
私が悪いみたいじゃん
愛だと思っていたけど、それは執着だと看破されて、
豪太も少しはショックを受けてほしいんだけど、
そうはならずに大団円へ。
ほんとうの愛とはなにか、それをチカが体現してくれます。
豪太は台本作家としての力量を証明するために、
お笑いライブのオーディションに申し込みます。
そこで自分は結果を出して前に進みたい、そのために、
チカに夫婦漫才をしてくれと頼むのです。
普通の妻ならそんな頼みを受け入れないでしょう。
芸人志望なんかじゃないんだから。
けれどもチカはここが大事な転換点とばかり勝負に出ます。
豪太に最後のチャンスを与えたのです。
彼なら最高のネタを書けるはずだと信じて。
しかし、出来上がったネタは豪太自身も
納得いかないレベルでした。
それでもチカは夜な夜な練習に付き合い、
そしてオーディション当日。
豪太は緊張のせいでセリフも飛んでしまい、
呆然とステージに突っ立っているだけの敵前逃亡状態で、
チカはそれでもウケないネタで我が身をさらして奮闘します。
失笑しか返ってこないような客席に向かって、
ひとり必死でネタを披露するのです。
もはや漫才の体(てい)をなしていません。
このときのチカの孤独で哀れなこと。
信じた男に最後の最後まで裏切られたのですから。
オーディションが不合格になって、帰る道すがら、
チカはとことん豪太を罵倒しまくるかと思ったら、
泣きじゃくります。
悔しい悔しいと号泣する、その悔しさのワケは、
豪太の才能に賭けた自分が報われなかった悔しさなのか、
本領を発揮できずに終わった豪太を思っての悔しさなのか、
このまま世に知られないまま豪太が終わってしまう悔しさなのか。
やっぱり愛は執着なんだと思うんです。
チカの愛も執着で、執着こそが愛なんだと。
このドラマ、主役のふたりもいい仕事をしてますが、
太郎を演じた嶋田鉄太も最高でした。
太郎は「どぶろっく」ってお笑いコンビのファンで、
iPadで動画を見るのを楽しみにしています。
太郎が大好きな○○○○音頭は「なか倫」を通らないので、
このエンディングテーマを紹介します。

「それでも俺は、妻としたい」は、
原作・脚本・監督を務めた足立紳の自伝的作品で、
豪太一家が暮らす家も監督が自宅を提供したそうです。
このドラマが良かったので、同じ監督の作品で、
同じようにキレる妻と残念な夫が出てくる、
朝日放送の「こんばんは、朝山家です。」も見たけど、
妻を演じる中村アンのセリフがきつすぎて、
最初の10分ほどで脱落しました。