うめはらなかせの日記みたいな掲示板2

アコースティックギターの前にすべての曲は平等である

つまをめとらば才たけて

67歳で直木賞を受賞したという

青山文平の受賞作、読みました。

仕事が立て込んでるときほど眠りが浅くて、

夜中に読んだりするんですよねえ。

 

つまをめとらば

太平の世の武士やその妻たちを描く

短編集です。

たとえば「つゆかせぎ」は、

亡くなった妻が「七場所異聞」という

戯作を書いていたと知らされる夫の物語。

七場所とは、江戸深川の花街を形成した七つの地区、

仲町、新地、櫓下、裾継、石場、佃、土橋をいうそうで、

そこは陰間茶屋、すなわち男娼を斡旋する茶屋のある町でした。

男娼は坊主などの男色の相手をするとされてはいるものの、

その実、客は女のほうが多いらしい。

『七場所』は、女のための吉原でもあるのだ。

へ~~、そういうとこは今も昔もあるんだと感心します。

思いがけず妻の見知らぬ一面と才を知り、

戸惑う夫の姿が描かれます。

これ、内容から暗い話と思われるかもしれませんが、

全然そんなことはなくて、

夫は先だった妻に導かれるようにして

自分の生きる道を見出します。

 

いちばん印象に残ったのは

「逢対」(あいたい)という短編です。

逢対とは、権勢を持つ人物の屋敷に、

無役の者が出仕を求めて日参することで、

まだ暗いうちから門前に並び続けて、

登城前の要人が姿を現わすのをひたすら待つんだそうです。

ようやくそのときが訪れても、

こちらから声を発してはならない。

ただ黙って座りつづけて、顔を覚えられ、

向こうから声がかかるのを待つのである。

ここを読んだとき、病院の廊下でドクターを待つ、

MR(メーカーの医薬情報担当者)の列を思い出しました。

あれもしんどい仕事ですよねえ。

(いまは違うのかも)

でもこの小説では思いがけない展開があって、

へええええ、そう来るかっていうハッピーエンドなんです。

苦悩や屈辱などネガティブな感情も描かれますが、

主人公たちの選択は痛快で爽やかで、

読み手の気持ちを軽くさせてくれます。

先日の「地図と拳」と打って変わって

読みやすくわかりやすい小説です。

同じ直木賞受賞作でも、

著者の年齢が近いからでしょうかね。

 

著者の青山文平、

67歳は史上二番目の高齢の受賞者だということです。

ちなみに史上最高齢での受賞は星川清司

68歳2か月のようです

いま話題の林真理子理事長の青山文平評がこれ。

この方の文章のうまさというのは感嘆に価する。

そして女たちの魅力的なことといったらどうだろう。

したたかで、ちゃっかりしていて愛らしい。

今まで男たちが描いてきた「江戸の女」を

鮮やかに裏切っているのだ。

 

タイトルで思い出すのがこの歌です。

妻を めとらば 才たけて

みめ美わしく情けある

「人を恋うる歌」(与謝野 鉄幹)の歌詞です。

嫁にするならば、賢くて見た目が美しくて

優しい心根のある女性がよいという意味だそうで、

そりゃ全部のせくらい贅沢な要求だなあ。