岩城宏之の「森のうた」っていう
文庫をいま読んでるんです。
青春グラフィティってとこですかね。
天才、山本直純との交流模様が楽しいです。
だけどぼくはちょっとキマジメなのか、
どうしても引っかかるエピソードがあるんです。
東京藝術大学時代の話です。
岩城&山本コンビは指揮をやりたいというので、
学生による学生のためのオーケストラを結成しようとします。
ところが、だれも参加者がいないので、
練習に来た者には1人2杯ずつもりそばを進呈すると
ポスターに書いたら、たちまち85人も集まりました。
ふたりのぶんを加えると、174杯のもりそば。
そば屋に注文したら、出前のお兄ちゃんふたりが、
何往復もして運んでくれました。
そのあと当然、お兄ちゃんは集金に来ます。
代金は3480円。
昭和26~27年ごろというと、
小学校教員の初任給が5500円の時代ですから、
かなりの金額です。
しかし、岩城&山本コンビはお金がなくて、
集金の兄ちゃんの前からとんずらして、
最後まで払わずじまい。
当時、岩城宏之はアルバイトで打楽器奏者をしていて、
月10万円の収入があったと書いています。
先ほどの先生の初任給から割り出して、
いまの価値にすると400万円くらい?
なのに当時も、いまにいたるも、
そば代金の始末はわからないと書いています。
おそらくそば屋は大学に訴え出て、
担当教授が払っているのだろうと想像します。
でも、代金を踏み倒されたそば屋や、
迷惑をかけたお兄ちゃんに対し、
あるいは建て替えたであろう師に、
罪の意識や反省の思いがないのに少々がっかりしました。
10年後に謝罪に行ったとか、そういうことでもあれば
若気の至りでと許せる気もするのですけれど。
お金持ちの芸術家って、こんなに常識のない人たちなのかしら。
面白い内容なのに、そこだけは後味の悪い読後感でした。