夜寝る前30分の読書タイムで、
それなりに読了できています。
先日、読み終えたのがこれ。
宮本徳蔵って作家は初めて。
著者略歴
昭和五年、伊勢市生まれ。東大仏文科大学院修了。
昭和五十年「浮游」で新潮新人賞を受賞。
昭和六十二年『力士漂泊』で読売文学賞を受賞。
帯にあるように第4回柴田錬三郎賞受賞作です。
というキャッチフレーズに惹かれて買ったんだと思います。
(30年近く前に買って、読んでなかったんです)
文禄・慶長の役では朝鮮側について戦った日本人が
少なからずいたのですね。
あまりに大義のない戦いに嫌気がさした武士から、
遠征に無理やり駆り出されて脱走した人夫までいろいろ。
「降倭」(こうわ)といいます。
この小説の主要人物、岡本冴香(さやか)もその一人。
虎を一撃で倒したことから“虎砲″と呼ばれた人物です。
陣所を脱走し、乱の後もそのまま朝鮮にとどまりました。
と書くと加藤清正は無理無体を言う身勝手な殿
という印象を与えるかもしれませんが、
そんなに人物を単純化しないのがこの作家のよいところです。
加藤清正もそれなりに複雑な性向を抱えていて、
侍としても人間としても魅力的な存在として描かれています。
岡本冴香には300名の家来がいましたが、
ほぼ全員が行動を共にします。
それほど家来に慕われていたというのと、
加藤清正が近江長浜から熊本に転封されてきて、
まだ数年しかたっていなくて、
朝鮮は当時も異国ではあるのですが、
いまほど隔たり感がなかったのかもしれません。
岡本冴香は朝鮮王のもとで鉄砲隊を率いることになります。
鉄砲のことはあちらでは鳥銃(チョウジュウ)といいます。
朝鮮にはなかった鉄砲を冴香がつくらせ、
鉄砲隊を率いて日本軍を苦しめます。
朝鮮は援軍として駆けつけた大明の将軍に頭が上がらず、
民衆も明軍の乱暴狼藉を受けて苦しめられます。
こういう中国の大国意識は今も昔も変わってない感じがします。
感心したのは、敵国の将に少なからぬ兵(2000名)を
与えて活用するという、柔軟でリアリスティックな発想をする
リーダーが朝鮮側にいたという事実。
有能な降倭は金以上の価値があると見抜き、
よけいな軋轢を気にせず思い切って使うわけです。
最近、嫌韓発言をする文化人ですら、
韓国のコロナ対策を評価しているのを聞くにつけ、
やるときはやる的な一面は、
昔から彼の国にあったのだなあと感じました。
この「虎砲記」のほかにもう1編、
中編小説「王使」が収録されています。
いずれも文禄・慶長の役での攻城戦を描く戦記物としても
面白くて、毎晩5ページ10ページ読み進むのが楽しかったです。
歴史小説の好きな方にはおすすめです。