って小説をちょっと前に読みました。
中国史に輝く仮面の貴公子
その将軍は美しすぎる顔を隠すために仮面をつけて戦場を疾駆した。
と帯にあります。
美形で強く優しく清廉で。
ヒーローとしてはデキすぎ君です。
おまけに仮面をつけてるところがミステリアス。
蘭陵王は美女と見まがうほどのイケメンだったために、
戦場でなめられぬよう、あなどられぬよう、
いかめしい仮面をつけて戦に出かけたそうです。
時代は6世紀の中国。
このあたりの中国史ってさっぱりわかりません。
うろ覚えですけど、
殷・周・秦・漢・隋・唐・宋と王朝が変わっていきますよね。
というややこしい時代がありました。
で、この物語は隋が勃興する前、南北朝の時代です。
三方を強敵に囲まれ、
おまけに王朝内は自分の保身にしか興味のない、
無能で強欲な皇帝の統治のもと疑心暗鬼が渦巻いています。
皇帝は有能な人材とみるや重用するどころか、
自分にとって代わろうとする裏切者候補と見て、
ありもしない罪をでっちあげて徹底的に排除(一族皆殺し)します。
有能で清廉な人材ほど殺されていくわけです。
小説そのものは読みやすく、
アクションシーンでは血湧き肉躍る描写なんですが、
こういう誅殺・謀殺の連続を読むのはしんどいです。
でも、それがこの国の歴史なんですねえ。
作者は田中芳樹で、あのSF大作
「銀河英雄伝説」を書いた人です。
あれはあれで外交戦略、艦隊決戦、政権内の確執や人事闘争を描く、
オトナなSF小説でしたが、
何万隻(?)もの艦隊が一気に蒸発するみたいな、
空恐ろしい消耗戦争をくり広げるのが、
やっぱり読んでいて居心地悪かったです。
「蘭陵王」では敵国との戦いの場面と、
皇帝の非道ぶりが前後して描かれます。
戦えば必ず勝つという蘭陵王も皇族出身という身分だけに、
勝てば勝つほど皇帝の嫉妬と猜疑心を刺激するわけで、
その果てに予想通りの悲劇が待ち受けています。
すべて史実に基づいているだけに、もうやめてくれ~~と思っても、
どんどん悲劇の大団円に向かって物語は疾走していきます。
登場人物が多すぎるので名前が覚えられず、
覚えたかと思ったらどんどん消されていくのでしんどいけど、
久しぶりに漢字いっぱいの小説を読んで満腹状態です。
この蘭陵王、ぼくは知らなかったのですが、
蘭陵王入陣曲
という雅楽の曲で、日本ではよく知られているそうです。
「最も上演機会の多い舞楽曲の一つ」
なんだとか。
そもそも雅楽を聴いたことないから知ってるわけないんですけど、
「左方の代表曲」なんですって。
平安時代の初期に、朝廷を警護する組織の近衛府が舞楽に携わっていたそうで、
いまでいうと警察音楽隊みたいなことでしょうか。
その近衛府が左と右に分かれると、
舞楽も左の舞と右の舞に分かれたとか。
そして左の舞、「左方」の代表曲が蘭陵王というわけです。
「蘭陵王入陣曲」です。
この歌が都でうたわれるのを皇帝は嫌います。
皇帝は自分のテーマソングをつくらせてうたわせたエピソードも
小説に出てきました。
ちっこいやつですよねえ。
歴史書って勝者の歴史を書くわけで、
前政権の皇帝のことは徹底して貶めますから
本当のところはわかりません。
またまた長い文章で失礼しました。