うめはらなかせの日記みたいな掲示板2

アコースティックギターの前にすべての曲は平等である

哀惜のルックバック

人は生まれたから死ぬ

という言葉をふいに思い出しました。

 

ルックバック

アマゾンプライムで配信が始まって、

予備知識ゼロで見たんですけど、

びっくりするほど美しくて、哀切で、

胸の奥をわしづかみにされるような映画でした。

今年見た映画のなかでいちばんかも。

lookback-anime.com

 

通常料金より高くて上映時間は逆に短いのに

ヒットした映画があるという記事は読んでたけど、

この映画だったとは覚えてなくて。

こういう話だったのかあ。

 

マンガの作話・ネームに才のある藤野と

背景画に際立った画力を示す京本(どちらも女の子)は、

小学校で出会い、中学でタッグを組んで漫画賞に応募し、

「藤本キョウ」の名でプロの道へ。

互いの才能を認めつつ、高め合う関係ながら、

あるとき自立と成長を目指す京本が離れていく。

そして……

 

「ルックバック」というタイトルには、

疾走してきた10代を振り返るという意味と、

先頭を切ってマンガ家人生を切り開いていく藤野が

振り返れば、伸ばした手の先にいつも京本がいた

という意味があるのでしょう。

ふたりでなら突き進んでいけるという、

強固な信頼と安心感は、

いつでも振り返れば確認できた、

そんなあの頃への哀惜の念。

 

ひとつのことに一途に打ち込めるってことが、

すでにとてつもない才能なんですね。

創作するって命をすり減らすようにして、

時間を使いたおす、尊い作業です。

どんな分野でもアートってってそうだと思います。

 

青春期らしい、身内から湧き上がるような、

自分はなにものかになるのだという確信と、

なにがなんでも描かずにおれないのだという衝動。

青雲の志って言葉は若い世代にピンとこないけど、

ただ真っすぐに坂の上の雲をめざす、

ふたりの少女の鮮烈な物語です。

 

小説でいう「文体」にあたる絵づくりがすごくいいです。

セリフは少なめに絵と映像と音楽で語ります。

主人公の心象に寄り添うように、

ときにリアルに、ときに幻想的に、

そして、いかにもマンガ風に、

シーンに応じて文体が、語り口が、変わっていくんだけど、

違和感を覚えつつも、それが新鮮で、説得力があります。

適材適所に表現形式が変わっていくのを、

うっとりと見入ってしまいます。

 

音楽もいいですね。

回想シーンの劇伴も映画音楽の王道をいくように感動的だし、

エンドロールで流れる主題歌は、

アイリッシュミュージックのようにも聴こえ、

物語から生じた心のざわつきをいなしてくれます。

www.youtube.com

 

どんなに悔やんでも、

どんなにもがいても苦しんでも、

もう取り戻せないことが人生では起こります。

口から放った言葉はもう戻せません。

考えなくやってしまったことも取り消せません。

それでももう一度、もう一度、と願い、

たぐり寄せようとすればするほど、

妄執の深みにはまってしまいます。

そうなったとき、人はどうすれば

そこから解き放たれるのでしょう。

 

妄執はものづくりをする人間の創造の源泉かもしれません。

この映画とは関係ないけど、ブライアン・デ・パルマ監督作、

愛のメモリー」(Obsession)を思い出しました。

cinemore.jptorimodosenakutemo 

 

「ルックバック」の58分はあっという間でした。

58分の作品だったとは思えない余韻が続きます。

妄執の果てに希望が待っていることを予感させてくれます。