600ページの大著、読み終えました。
角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス
が副題です。
事件が発覚したのは1976年、ぼくが大学を卒業する頃です。
コーチャンとかピーナッツとか丸紅ルートとか、
「記憶にございません」とか、
連日報道されていたのを覚えています。
それくらい世間を騒がせたニュースでしたね。
この本を読んで少しずつ記憶がよみがえったのと同時に、
勘違いがあったことにも気づきました。
その前からの金権疑惑で退陣したのですね。
もう一つ、ニクソンが中国を電撃訪問した
この米中の「頭越し外交」に驚いた田中角栄は、
日中国交正常化に踏み切るのですが、
実はアメリカは雪解けムードを演出しただけで、
従来の関係を変えることなく、
新たな約束はなに一つしなかったというのです。
「中国は一つ」とも「台湾は中国の一部」とも認めませんでした。
ところが、日本政府はその両方を認め、台湾と断交します。
1972年の日中共同声明に激怒したといいます。
ジャップたちが上前をはねやがった
と口汚くののしります。
こういうのも全部公開文書に残ってるんですねえ。
また1973年、第4次中東戦争による石油危機で
田中角栄はそれまでの中東政策を変更し、
アラブ支持にまわり、これまたアメリカを怒らせます。
日中国交正常化も石油危機回避も国民が望んでいたことでした。
この本の前半では、キッシンジャーと田中の関係に迫ります。
田中外交を蛇蝎のごとく嫌っだ米政府高官と、
Tanaka文書の日本への提供を決めた高官は同一人物、
キッシンジャーその人だったのだ。
キッシンジャーは田中が逮捕されても構わないと考えて
文書を日本側に提供したということです。
妨害したのもキッシンジャーです。
しかし、実のところ「巨悪」は田中角栄ではなく、
超大物の「巨悪」は逃したのだというのがこの本の副題です。
はっきり名前を出しています。
田中角栄は民間航空機の機種選定に際し、
有罪の判決を受けました。
しかし、一連の事件の本当の主役である児玉誉士夫に
ロッキード社から渡されたのは21億円に上ります。
いまも児玉ルートのカネの使途は不明のままです。
終戦の前日、中国から巨額の資産を持って帰国したそうです。
その飛行機を提供したのが朝日新聞というのですからびっくり。
満洲・中国から帰国するのに、
当時どれだけ多くの日本人が地獄の苦しみを味わったことでしょう。
「首相の犯罪」が裁かれたロッキード事件は、
全日空という民間会社の贈賄事件でしたが、
裁かれなかった巨悪は自衛隊機の商戦に関してでした。
児玉誉士夫は決まりかけていた次期対潜哨戒機の国産化を撤回させて、
ロッキードP3Cを選択させることで、
25億円の報酬を得る約束になっていたそうです。
同じロッキードでなんでこれが贈賄で事件化されなかったかというと、
田中角栄のときのように証拠が開示されなかったからです。
背後にCIAも関与していて、
これがバレると日米両政府ともに困ったことになる、
「国益を損なう」という判断でした。
続けてE2C早期警戒機、F4E戦闘機の導入をめぐる
「ダグラス・グラマン事件」も表面化しますが、
これもキーマンの自殺(他殺説あり)で未解明のままに終わります。
日本国民はアメリカ政府とその意を受けた巨悪たちの思惑通り、
田中角栄逮捕・有罪で満足してしまった、
ガス抜きされてしまったところがあります。
この本を読んで戦後の政界と闇世界の
つながりの一端を覗いた気になったわけですが、
それでもなお、田中角栄も中曽根康弘も、そして児玉誉士夫すらも、
私利私欲のためだけに人脈と金脈を築いたとは言い切れない気がします。
彼らは、たとえ汚い手段を使ってでも権力を掌握し、
それを日本に必要な政策を実現するための力に変えたのだと言いそうです。
ましてアメリカからの大きな圧力が加わり、
CIAのような情報機関の工作の手が伸びてきたとき、
そこから自由でいられる人間がいるとは思えません。
政治家には必ず「功罪」という言葉がつきまといます。
「功」が大きければ「罪」は不問に付せるのか。
「罪」があればどんな「功」も吹き飛んでしまうのか。
ひとによって見方は変わります。
「功」だけで語られるような政治家が
いつか日本に現れることがあるのでしょうか。
そんなことを考えてしまいました。
著者インタビューです。