うめはらなかせの日記みたいな掲示板2

アコースティックギターの前にすべての曲は平等である

藪の中ではない決闘裁判

最後の決闘裁判

見ましたがな。

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リドリー・スコットにハズレなし

とかぼくは言うてましたけど、

いくつか見てきたなかにハズレはあったかもなあ。

 

この映画、中世のフランスの騎士とその妻のお話です。

白馬に乗った騎士も領地と生活を維持するのは大変。

という部分も描かれています。

題材となったのは、14世紀に実際に起きた、

フランス最後の決闘裁判らしいです。

暗黒の中世

という見方は最近の歴史学では変わってきてるみたいですけど、

この映画ではやっぱり暗黒でした。

人権という言葉も思想もない時代。

女性は強姦されても自らそれを訴え出られません。

現代でも飼い犬が車に轢かれても器物損壊罪にしかならないように、

動物愛護管理法には動物殺傷罪の規定があります)

被害を受けた妻が犯罪者の処罰を求めるには、

妻の「所有者」である夫が行動を起こさないといけないのですね。

 

映画の中では夫のマット・デイモンが相手の男に決闘を求めます。

妻は無理やりされたと言い、相手は合意の上だったと言い、

現代でも珍しくない対立の構図のなかで、

現代と違うのは裁判官が証拠をもとに審判を下すのではなく、

神が両者の決闘の勝負において審判を下すということ。

つまり決闘に勝ったほうが正しいとされるのです。

決闘裁判という所以ですね。

 

負ければ夫が死ぬだけでなく、

妻も偽証の罪で火あぶりの刑を受けることになります。

なんとご無体な中世。

当時は「強姦では妊娠しない」という定説があって、

不運なことに妻は結婚以来なかなか子を授からなかったのに

この一件のあと妊娠がわかります。

夫は夫で、妻への信頼からとか、

妻の名誉を回復してやりたいとかいう思いよりも、

相手の男への強烈な憎悪と闘争心から決闘を申し込みます。

ひとりの人間としての妻の苦悩に寄り添うことはありません。

 

以上、映画として面白くなりそうな要素がいっぱいあって、

しかも監督は巨匠なので、もう一気見必至かと思いきや、

随分と長く感じました。

実際、上映時間は153分で長いです。

英仏百年戦争の戦闘シーンと、

最後の決闘シーンはものすごい迫力とリアリズムで、

見ていて体に力が入ってしまうくらいでした。

西洋の鎧武者同士の肉弾戦は圧巻。

馬も装甲で覆われていて、

よほど隙間を突かないと致命傷は与えられません。

 

ここからはネタバレの恐れがあるので、

映画を観られる方は読まないほうがいいです……

 

この映画は、事件を告発した被害者の妻、被害者の夫、

そして訴えられた相手の男、それぞれの視点で、

事実が語られる三幕構成をとっていて、

そこは黒澤映画「羅生門」みたいなんですけど、

あんなふうに三者三様、言うことが全然違うんじゃなくて、

ほとんど変わらないという印象でした。

(だれが見ても強姦は強姦)

だからほぼ同じ事実をくり返し見せられてるように感じてしまいます。

なんで「羅生門」(芥川龍之介「藪の中」)スタイルを

とったのか疑問でした。

それに、

法廷ものにハズレなし

とぼくはよくいうんですけど、

裁判シーンにも緊迫感はなかったですねえ。

 

あと、相手の男を演じる男優が、スターウォーズに出てくる

アダム・ドライバーダース・ベイダーの孫カイロ・レン役)で、

映画の中では、美しい、ハンサムと称されるのですけれど、

いまいち、そんなに魅力的に感じなかったかなあ。

ま、好みの問題なんですけど。

 

とあれこれ文句を言いましたけど、

冗長に感じた以外は、よくできた映画でした。

さすが、リドリー・スコットでありました。