うめはらなかせの日記みたいな掲示板2

アコースティックギターの前にすべての曲は平等である

言葉にできない

なかせさんが珍しく

純文学ってなに?

と訊いてきたので、それ以来、

はて、純文学ってなんだろうと考えたりします。

(検索すれば早いんですけどね)

難しくて読んでてもやもやするのが純文学で、

楽しくてわかった気になれるのがふつうの小説で、

芥川賞受賞作が純文学で、

直木賞受賞作がふつうの小説で……。

 

純文学と一般小説の違いって、

芸術品と工芸品の違いみたいなもんかしら。

歌でいうと、小椋佳のこれ。

疲れを知らない子どものように

時がふたりを追い越してゆく

という歌詞は文学的に感じます。

でも読めば理解できて、その通りだなあと納得できるから、

純文学的じゃないのかもしれません。

 

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

夜の底が白くなった。

これも文学的です。

1行目はわかるのに2行目がわかりません。

夜の底ってなに? と考えてしまいます。

ひっかかります。

ひっかかることで、ずっと純文学に近づいた気がします。

 

そういえばこういう本を前に読んでました。

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キリコは拒否の言葉のかわりに、

ぴったりと足を閉じた。

閉じようとした。

しかし、その前に驚くほど強い力で、

キリコの両足は押し拡げられていった。
自分のいちばんやわらかい肉に、

今まで見たこともないほど固い肉が触れたのがわかる。

しかも、その肉はなにかを探して、

ぐるぐるとやわらかいまわりをさまよっている。
やがてそれは一点に止まった。

その肉は完全に一本の棒に変化していた。

          (「星に願いを」/講談社文庫)

これはレイプの話ではないんです。

女性が触覚で感じた未知の体験を表現しています。

あれはどんな感じだったか、

もどかしい思いを言葉に変換しようとしています。

 

いわく言いがたいことは言葉にできません。

人はなんのために生きてるんだろ。

生きてきてなんとなしに空しいなあ。

そういうひとの気持ちでも、

世の中の有象無象のことでも、

永遠のことであれ一瞬のことであれ、

わけのわからないものを、

これなんだろうと考えて、

なんとか言語化しようとするのが詩とか純文学かしら。

それは○○ですと、言葉になって初めて腑に落ちるってことはあります。

名前がわかれば正体が明らかになるという、

あの「千と千尋の神隠し」もそうだったように。

 

人間はよくわからないこと、

もやもやな気持ちをどうにか処理したくて、

スッキリしたくて、言葉にしてわかろうとするのでしょう。

その超個人的な取り組みが、結果として、

だれもが追体験できるものになってたら、それが純文学なのかしら。

いや、やっぱりようわかりません。