書評を読むのが好きです。
著者や出版社にとって、いい書評というのは、
その本を読んでみたいと思わせる文章なのでしょう。
でも、ぼくが思う、もっといい書評は、
その本を読んだ気にさせる文章です。
家は生態系
あなたは20万種の生き物と暮らしている
ロブ・ダン〈著〉
今西康子訳 白揚社2970円
生態学者が家の中に棲む生物を調査して書いた本です。
家の各所を綿棒で拭って、PCR法で遺伝子解析したそうです。
PCR検査っていうので近頃よく耳にするあの方法ですね。
結果には本当に驚いた。
なんと屋内には冷蔵庫から玄関まで8万種の細菌や古細菌、
数千種の節足動物をはじめ、約20万種の生物が棲んでいるというのである。
しかも、ウイルスはそこにはカウントされていない。
宇宙ステーションでさえも人間由来の細菌のコロニーができているという。
そう、家はまさに生態系なのだ。
へ~~~!
って思います。
家の中にいろんな虫や細菌はいるとは思ってたけど、
まさかそれほどまでとは。
そもそもが人間自体が細菌の棲みかだということです。
どんな人でも「一日におよそ五〇〇〇万個の皮膚断片」が
身体から剥がれ落ち、それぞれに数千個の細菌が棲んでいて、
それを食べている。
しかもほとんどが無害。
「病原菌を寄せ付けないように守ってくれている皮膚常在細菌」である。
1日5000万個も皮膚のかけらが剥がれ落ちるってすごくないですか。
しかもそれを食べている細菌がいるって。
「家は生態系」ってタイトルですけど、
その前に人間も多種多様な生物が共生する生態系なんですよね。
そう考えると、無数の生物のなかに浮遊してるかのような、
「ぼく」っていう意識はなんなんでしょう。
それら生物の代表者とは思えません。
皮膚だけでも5000万個も脱落し、おそらくは再生され、
そういうことが体中で起こっているわけで、
そんなんで昨日の「ぼく」と今日の「ぼく」は
いっしょっていえるんでしょうか。
脳内の電気信号にすぎない「ぼく」という意識は、
人間という生態系のなかでは、あるかなきかの存在なのかも。
そんなことを考えさせてくれる書評だったので、
十分に1冊読んだ気がしています。