うめはらなかせの日記みたいな掲示板2

アコースティックギターの前にすべての曲は平等である

三体話

中国SFのベストセラー「三体」を読み終えました。

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(といってもまだ第1部だけです)

事前知識としては、

1)中国人が中国語で書いたSF小説である

2)S世界最大のSF賞であるヒューゴー賞長篇部門を受賞した

ということしか知りませんでした。

 

そもそも「三体」ってなに? って思うじゃないですか。

あとがきによると、

天体力学の〝三体問題″に由来する。

三つの天体がたがいに万有引力を及ぼし合いながら

どのように運動するかという問題で、

一般的には解けないことが証明されている。

もしもそんな三つの天体を三重太陽として持つ惑星に

文明が生まれたとしたら――というのが

本書の(あるいは、本書に始まる〈三体〉三部作の)基本設定。

ってことです。

 

三体問題は、17世紀にさかのぼる、

数学の古典的難問として知られているそうですが、

そこはわからなくても十分楽しめます。

この圧倒的なスケール感と有無を言わさぬリーダビリティは、

ひさしく忘れていたSFの原初的な興奮をたっぷり味わわせてくれる。

という訳者の言葉はまさにぼくが抱いた感想でした。

 

実はこれを読む前に、久々のSF長編を読んだのです。

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前人未踏の3年連続ヒューゴー賞長編部門受賞を達成

という売り文句に惹かれて手に取ったのですが、

ほんとうに読むのに苦労しました。

そのSF的設定についていけないというか、

ああ、もう最新SFを楽しめる年齢じゃないんだと、

かなり落ち込みました。

(それなりに面白かったんですけどね)

その続きで「三体」というこれまた分厚い長編に取りかかったわけで、

ぼくはつくづくコリン星人でありました。

 

あらすじは――

人類に絶望した天体物理学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)が

宇宙に向けて発信したメッセージは、

三つの太陽を持つ異星文明・三体世界に届いた。

新天地を求める三体文明は、千隻を超える侵略艦隊を組織し、

地球へと送り出す。

太陽系到達は四百数十年後。

人類よりはるかに進んだ技術力を持つ三体艦隊との対決

という未曾有の危機に人類は直面する。

 

「三体」は、宇宙もの、地球侵略もの、ファーストコンタクトもの、

という、SFとしては古典的テーマなのですが、

だからといって古臭いということはまったくなく、

古き良きSFを彷彿とさせながらも新しさを感じさせる、

先斗町の「いづもや」のような大作なんであります。

たとえば「量子もつれ」を駆使した量子通信で、

地球にサイバー攻撃を仕掛けてくるところなど

ぼくには意味わかりませんけど、とっても斬新です。

 

また文化大革命の時期から語り起こす構成もすばらしい。

そもそもの地球侵略を招く登場人物の動機に文革が関わってくるのです。

中国SFならではのストーリーだと思います。

 

SFは面白い!

と感じさせてくれるところがいっぱいあって、

たとえば、だれもが知ってる「光年」。

光の速さで1年かかる距離のことですね。

三体星系は、太陽系から約4光年と、

天文学的スケールでいえば目と鼻の先にあって、

三体星人は光速で飛行する技術をすでに確立しています。

4光年の距離で、光速が出せる技術があるならば、

三体からは4年後に地球に到達すると思うんですが、

宇宙艦隊のような大きな質量のものを光速まで加速する時間、

そして地球到達までに減速する時間を入れると4年じゃ足りないんです。

この小説のなかでは、地球侵略艦隊は、

400年以上かけて地球に到達するということになっています。

スタートレックのようなSF映画やドラマの世界では、

瞬時に移動するワープが当たり前みたいになってますけど、

そうじゃないSFもあるんです。

 

で、三体星人は考えるわけです。

我々の艦隊が地球に到達するころは地球の科学技術が発展していて、

返り討ちにあうかもしれない。

地球の科学をこれ以上発展させてはならない。

それには粒子加速器による実験を妨害しなければ……

ということで、その方法がまた面白いんです。

長くなるから書きませんけど(もう十分長いか)。

 

あとがきを読んでまたびっくりしました。

著者の育った村では、
友だちのほとんどは冬も裸足で、春になってもしもやけが治らない。
村に電気が通ったのは80年代のことで、
それまで、明かりは灯油ランプが頼りだったという。
当時、村人たちはスプートニクもアポロの月着陸も知らず、
少年だった著者には人工衛星と恒星の区別もついていなかった。
しかし、著者は一般向けの天文学解説書で光の速さと
“光年″という言葉を学び、宇宙に魅せられる。
それが本作の原点だったという。

 

いや~、すばらしい。
日本よりはるか後から追いかけてきて、
ついこないだ抜き去ったばかりの中国で、

(もっと長い歴史で見たら話は違うんですけど)
SFの分野でもこんなに面白い小説が生まれるなんて、
すごいことです。

 

中国は、地球外知的生命探査(SETI)という分野にも進出し、

「天眼」と命名された電波望遠鏡で約200の恒星の観測を始めたとか。
知的生命体を最初に見つけるのは中国だろう。

Xデーは20年以内に来る。

と中国の研究者は語っているそうです。