この本は一気に読みました。
418ページもあったのに(字組はゆったりだけど)、
読了まで1週間かかってません。
寝る前の読書タイムが待ち遠しくて、
それくらい面白かった「女だてら」
男だてらに読みました。
「女だてら」は冒険小説であり、ミステリ小説であり、
後半にはコンゲームの様相も呈する痛快時代小説です。
(詐欺師は出てこないんですけど)
原古処(はら・こしょ)の娘みち。
秋月藩は現在の福岡県にあった外様の小藩で、
福岡藩が本家にあたります。
ウィキペディアには、
黒田長政の三男・長興が福岡藩より5万石を分知されて立藩した。
とあります。
この分離独立を快く思わない層が、
当初より本家には存在したようです。
さて、主人公のみちは背が高く、漢詩を嗜むだけでなく、
武芸も身につけた、大酒呑みで男勝りの美人。
秋月黒田家の嫡子急死の報を受け、
お家の存亡に関わる密命を帯びて、
若侍に姿を変えて、京へ向かいます。
男装の麗人というやつですね。
女性が男装して冒険の旅に出る?
そんなのまったくの創作だろうと思いきや、
ちゃんとモデルがありました。
その人は原采蘋(はら・さいひん=本名みち)という、
実在する女流漢詩人なのだそうです。
みちは漢詩を作りながら男装で旅を続ける生涯を送った人で、
文政10年に、秋月から江戸へ遊歴の旅に出たものの、
道中の日記はなぜか兵庫で途絶え、
文政12年に浅草で存在が確認されるまでの足取りがわかっていません。
この空白の期間に、おりしも秋月藩では後継を巡るお家騒動が…………。
という史実から作者がこの物語を発案したそうです。
みちは月代(さかやき)を剃った麗しい若侍姿なので、
少女から熟女まで、あちこちで女子(おなご)にモテます。
またみちの兄の友人で、京から江戸に同道する石上玖左衛門とは、
胸キュンな関係になりそうでならない、ちょっといい感じ。
そこに正体不明の米助とおひょうという男女もからんで、
物語は危機一髪が連続するスリリングな展開を見せます。
漢詩に隠された謎もミステリアスです。
お家の危機に際して幕閣の上層部にいかに渡りをつけるか、
そのために親戚縁者、伝手から伝手へとつないでいく、
江戸時代の人脈活用の機微がまた興味深いです。
時は文政10年といいますから、西暦で1828年。
国外に持ち出そうとしていたことが発覚した年です。
外国船打払令はすでに発出されています。
日本はグローバルな世界との接近遭遇におののき身構えています。
蘭学好きの殿様もいれば、国粋主義に凝り固まる為政者もいました。
200年以上続く幕藩体制に終わりが来るとはまだだれも思わなかった時代。
日本史においてはさざ波ともいえないくらいの小さな事件ですが、
当事者にとっては命がけです。
暗闘の陰で幾人もが殺害され、あるいは不審死を遂げます。
秋月黒田家と本家黒田家の意向をくんだ一派、
お家騒動につけこんで両藩の取り潰しを狙う幕府の重役、
そうはさせじと立ちはだかるライバル幕閣。
権力者たちの政治力学の間隙を縫うようにして、
みちは活路を見い出し、きわどい賭けに出ます。
コンゲームのように罠を仕掛けて大向こうをうならせる、
そんな痛快な展開が大団円に待ち受けます。
もしかして映画化されるんじゃないかしら。
みちの役は宝塚の男役さんなんかがいいですねえ。
綾瀬はるかでもいいかな。
そんな想像をしながら読むのも楽しいです。
読み終えて、ちょっと「女だてら」ロスな気分です。
姉妹作に「男ひでり」とかないかいのォ。