年賀状の整理をしていたら4~5年前に、
増山実さんが小説を出されました
と知らせてくれる人がいました。
ああ、そういえばなんとなくお名前は記憶にあるかな……
という程度のご縁なのですが、
ネットで著者名から探して読んでみたのが、これ。
勇者たちへの伝言 いつの日か来た道
とくにこの本をお勧めしたいのは、
阪急ブレーブスが大好きな人、
西宮北口に思い出がある人です。
ぼくはそのどちらでもありませんが、
それでもというか、そんなこととは関係なく面白かったです。
小説の使命がそうあるべきとはいいませんが、
読むと、前より生きやすくなった、自分も頑張ろう
と思わせてくれる有益な読み物があります。
「勇者たちへの伝言」は間違いなくそういう部類の小説です。
どんなに厳しい運命に翻弄されようとも、
勝ち負けで言ったら明らかに負け続けの人生であっても、
よし、生きていこうと前を向く、勇気ある人たちが描かれます。
ベテラン放送作家の工藤正秋が、
子どもの頃へタイムスリップして
いまは亡き父の初恋の話しを知ってしまう。
そしてまた現代へ戻って来ると、なんと、
父のかつての初恋の女性から長い手紙が届く……
という「あらすじ」を読むと、
ファンタジーのような印象を受けますが、
主人公が子ども時代に見た阪急ブレーブスの試合や西宮球場の記憶から、
北朝鮮帰国事業で、かの国を「地上の楽園」と信じて渡航した人々の
悲惨な道行きまで、予想外の展開にぐいぐい引き込まれていきます。
NHKの人形劇「ブーフーウー」の狼役の声優のエピソードも含めて、
史実とフィクションが巧みに組み合わされ、
登場する人物が(実在すると思われるブレーブスの選手までもが)
物語の大きな流れに編み込まれていく圧巻の構成にうなります。
どんな世界にも歴史の闇に埋もれる名もなき人々がいます。
この小説はそういう人たちに光をあてて、
それぞれの「生」の価値をくっきり浮かび上がらせます。
血まみれ泥まみれになりながらも、信念と誇りを失わなかった人、
厳しい人生を受け入れ、懸命に生きようとする、
ブレーブス(勇者たち)を称えます。
生きるってつらいことも多いけど、
やっぱり生きていくって素晴らしい
と思わせてくれる真っ当な小説です。
本が増えるのがいやで図書館で借りて読みましたが、
買えばよかったと悔いが残りました。