うめはらなかせの日記みたいな掲示板2

アコースティックギターの前にすべての曲は平等である

われわれはなぜ死ぬのか

これ、たぶん帯の文句に惹かれて買ったのだと思います。

死とは何か 衝撃の書

そう言われると知りたくなるじゃないですか。

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第1章で人間の死がどのように進行していくのか、

とても具体的に書いてあります。

血液が循環しなくなって最初に死ぬのは神経細胞である。
大脳皮質の細胞は、心臓の拍動が止まってから七から八分後には壊死を起こす。
視床下部神経細胞はやや長く、七五分以上生きている。

ここをずっと引用していくと、

死体がどんなふうに朽ちていくのかが詳述されていて、

なかせさんが気を失いそうなのでやめておきます。

著者はいかにも科学者らしい冷徹なまなざしで、

淡々と死のプロセスを語ります。

ちなみに「死とは何か」から連想する

「あの世」のことは何も出てきません。

書名の「われわれはなぜ死ぬのか」からは、

もっと哲学的な話を想像したのですが、

徹頭徹尾、科学的事実が語られます。

 

著者は「われわれの死」の前に生物全般の死に注目します。

たとえばミツバチの死――

女王バチが成虫になると一回だけ結婚飛行をする。

このあいだにいろいろな雄と何回も交尾して、

一生使うだけの精子を貯精嚢に保存する。

女王と交尾する雄は、女王の貯精嚢に精子を瞬間的に注入し、

陰茎の末端を女王の体内に残して、

ほとんど瞬時に死んでしまう。
女王はこの時に得た五〇〇万個ほどの精子

すべて受精しつくすまで生きる。

父親が死んでから女王の貯精嚢のなかで

精子は何年も生きつづけることになる。

この間、女王はほとんど老化することはないが、

精子を使いはたして受精卵を供給できなくなると、

雄の働きバチに殺される。

 

産卵後すぐに死んでしまうサケや、

射精後ただちに死ぬミツバチのように、

性と死の問に密接な関係があると著者はいいます。

死は、生を支えるための非常にダイナミックな営みではなかろうか。

と。

人間の場合、卵が受精するまでに無数の精子の死があります。

胎児に指がつくられるときも、

手の間に4本の溝ができていくのですが、

これは溝にあたる細胞が自ら死んでいく「アポトーシス」――

積極的な死があることで実現していくのだという話です。

生は死によって支えられているということなんですね。

 

著者は死の本質を分子レベル、細胞レベルで考えます。

なぜなら自分たちのからだが分子でできていて、

その基本単位が細胞であるからです。

そして一気に話は単細胞生物に飛んで、

そこからは生化学的な用語も多く、

平易に書かれているとはいえ、

ぼくには少々難易度の高い文章が続きました。

 

それでも見事な文章がいっぱいあって、

それをみんな引用したいくらいなんですが、

とんでもない量になってしまうので、これだけにしときます。

三六億年間複製されてきたDNAは、

私の生の終わりとともにその長い歴史の幕を閉じようとしている。

その一部は子や孫のからだのなかで複製されつづける。

三六億年間書き継がれた詩は、最後の一行を生殖細胞に残して

私とともにこの世から消え去ろうとしている。
生命の歴史の一瞬に存在し得た奇跡を思うとき、

私は宇宙のふところに優しく抱き上げられ、

ジプシー占いの水晶玉のように白く輝いて、

宇宙の光に融和しつくすのである。

 

正直、これを読んで死に対する恐怖が薄らぐことはないけれど、

生命の誕生以来の大きな流れのなかに

自分の生と死もあるということが、

なんとなく想像できました。