美術館が苦手で当然、絵を見る趣味もないんですけど、
そんなぼくでもゴッホの絵はなんとなくわかります。
ゴッホが精神を病んで自殺したということも、
自分で自分の耳を切り取ったという
痛々しい事件とともに記憶してます。
死後にようやく評価された画家だというのも
常識として知っています。
一昨日「ゴッホの遺言」という本を読み終えたんです。
著者は画家で、この本が初めての著作だそうですが、
とても読みやすい文章で丁寧に、
ゴッホが精神病が原因で自殺したのではないことを、
ゴッホの絵(「ドービニの庭」)と、
650通近いゴッホの手紙(弟のテオに送ったもの)から、
解き明かしていきます。
これ、20年前に買って、ずっと積読状態だったんです。
世のミステリーをはるかに凌ぐスリリングな推理。
一気に読まされ、完全に説得された。
と帯にあります。
朝日新聞の書評で絶賛されてたので買ったんですね。
ゴッホの死の謎を解く手がかりは、
ゴッホがゴーガンと暮らしたアパートを描いた、
「アルルのゴッホの寝室」のスケッチです。
これには2種類あって、1つは贋作であると、
著者は主張しています。
その検証が、いかにも画家らしく、
ゴッホがいかに深く考え抜いて構図を組み立てたか、
椅子やベッドなどの向き、角度、壁にかかる絵の内容まで、
細かく配慮していたか分析しています。
そしてこの贋作のスケッチを描いた人物こそ、
ゴッホ精神病自殺説を捏造した「犯人」であると、
著者は指摘しています。
その結論にいたるまでの著者の論証はとっても緻密で、
説得力にあふれています。
研究者の間で、この本の評価はどうなのか、
気になるところです。
ゴッホは労働するように制作した。
という一文があります。
芸術というのは前人未到の領域に挑む作業です。
それゆえ一生懸命描いた絵が理解してもらえない、
1フランにもならないと知りながら、
ゴッホはほんとうに真面目に、
炭鉱労働者や農夫が生活の糧を得るために労働するのと同様、
こつこつと制作していたというくだりを読んで、
ゴッホ、えらい!
って思いました。
それだけに自殺へと至るゴッホの心境に胸が衝かれます。
生きている間はお金にはならなかったけど、
亡くなる年に開催されたアンデパンダン展で、
画家仲間や評論家から高い評価を得ていたことが、
救いのように感じました。
絵のことがまったくわからないぼくですが、
油絵は平面として見るのではなく、
絵の具が盛り上がって造形される「立体」として
見えてくるという話や、
日本の浮世絵がフランスの印象派の画家に大きな影響を与えて、
芸術を豊かにしたのに反して、
西洋画の影響を受けた浮世絵師の作品はどれもこれも、
ただの物真似に終わっていたという指摘も面白かったです。
で、「犯人」はだれか?
それは書けません。