うめはらなかせの日記みたいな掲示板2

アコースティックギターの前にすべての曲は平等である

神戸に核ミサイルが落ちたとき

中学生くらいのときに「渚にて」を読んだんです。

第三次世界大戦で人類が滅亡する、いわゆる終末SFもの。

とっても分厚い本で、主要国が核の撃ち合いで滅んだあと、

わずかな人類が残るオーストラリアに徐々に死の灰が迫り、

最後は全家庭に自殺薬が配られて、おしまいという救いのない話。

核戦争というものが心底恐ろしかったです。

 

あれから半世紀、この本のタイトルが気になって読みました。

東京と神戸に核ミサイルが落ちたとき

所沢と大阪はどうなる

東京はわかるんですけど、なんで神戸?

と単純に思ったのです。

 

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その疑問は置いておいて、まずわかったのは、

人類を何度も絶滅させるくらいの核弾頭があるといわれるなかで、

著者は、というか核保有国の間では、

いくら核戦争になっても人類が滅ぶまでのことはない

と考えられているということです。

 彼らは核戦争のあとの「戦後」を意識しています。

だから核弾頭が何百何千あろうとも充足感はありません。

核による対立はずっと続くのですから。

 

この本によると、中国は推定400発の核弾頭を

保有しているものの、その中から日本に割ける数は

「数発」にすぎないとしています。

アメリカ、ロシア、インド、北朝鮮パキスタンなどの脅威に

備えないといけないからです。

 

中国は核戦争で荒廃した戦後、隣国の日本が無傷で

大国として台頭するのを許すわけにいきません。

というわけで日本のどこを狙えば戦後も安泰でいられるか、

中国はその標的選びに吟味に吟味を重ねることになります。

首都の東京が第一の標的になることは間違いないのですが、

その次は?

 

東京の「ついで」に攻撃する余裕があるとするならば、

茨城県東海村青森県六ケ所村、大阪府熊取町茨城県大洗町

などと本書に列挙されています。

日本はすぐに核武装して核大国になる力を持っている。

そんな国が隣にあったのでは「枕を高くして寝ることはできない」――

というのが中国の考え方なので、日本の原子力研究機関のある場所を、

攻撃するということです。

 

では神戸はなんで標的になるかというと、

大型の潜水艦を建造できるメーカーの拠点が集中しているから。

それくらい潜水艦という兵器を建造できる能力は

戦略的に価値があるということのようです。

一部を抜粋すると――

神戸港の水面上で水爆を炸裂させると、

飛沫は神戸市外までは襲いませんが、

降下灰が大阪湾一帯で観察されることは確実です。

大阪府を中心に、住民は大パニックに陥るでしょう。

京都や奈良にも風向きによっては

放射性の降下灰の洗礼があるかもしれません。

それによって引き起こされる大規模な避難騒動も、

東京の日本政府に対する「次の一発には耐えられるかな?」

という脅迫メッセージになるはずです。

なんと恐ろしい脅迫でしょう。

そのときに日本政府首脳が生き残っているかわかりませんけれど。

 

もっと恐いと感じたのは、

北朝鮮アメリカを怒らせないよう、

アメリカ軍人とその家族に犠牲者が出ない日本の都市を攻撃した場合、

アメリカは被害を恐れて恐れて反撃しないだろうという推測です。

アメリカ本土に届く核ミサイルは許せないけれど、

日本にいるアメリカ人に被害が出たらやっぱり許せない。

アメリカ大統領が考えると北朝鮮が考えた場合に

独裁者はどんな選択肢をもてあそぶのか……。

 

この本を読んで思ったのは核兵器とその戦略を司る人たちは、

冷徹に、合理的に、あらゆる可能性を検討し尽くしているんだなあということ。

本当なら日本も、地下避難所をつくる、食料や水を備蓄する、

重要な施設は分散するなど、普段から備えておくべきでしょう。

それらの多くは自然災害への備えとほぼ重なるはずです。

 

それにしても核兵器が1945年以降、一度も使われていないのは

奇跡のように思えてきます。

最後に、この本で救いになる一文はないものかと探しました。

これくらいですかねえ。

「核戦争になれば日本の全都市は壊滅する」というのは神話です。

日本国はイスラエルやイギリス等とは違い、

国土に「地の皺(シワ)」が多いおかげで、

一発の核爆発の影響が、自然に限局されるのです。